白鳥の悲しみ

千家元麿

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美しく晴れた日、 動物園の雜鳥の大きな金網の中へ 園丁が忍び入り、 白鳥の大きな白い玉子を二つ奪つて戸口から出ようとする時 氣がついた白鳥の母は細長い首を延して朱色の嘴で 園丁の黒い靴をねらつてついて行つた。 卑しい園丁は玉子を洋服のポケツトに入れて どん/\行つてしまつた。 白鳥の母は玉子の置いてあつた木の堂へ默つて引返へし それから入口に出て來て立止つて悲しい聲で鳴いた。 二三羽の白鳥がそれの側へ首を延ばして近寄り 彼女をとりまいて慰めた。 白鳥の母は悲しく大きな聲で二つ三つ泣いた。 大粒な涙がこぼれる樣に 滑らかな純白な張り切つた圓い胸は 内部から一杯に搖れ動き、 血が溢れ出はしまいかと思はれる程 動悸を打つて悶えるのが外からあり/\見えた。 啼かなくなつてもその胸は痙攣を起して居た。 その悲しみは深くその失望は長くつゞいた。 然しやがて白鳥の母は水の中へ躍り込んだ。 然うして涙を洗ふやうに、悲しみを紛らすやうに その純白の胸も首も水の中へひたし、水煙をあげて悶えた。 然しそれはとり亂したやうには見えなかつた。 然うして晴々した日の中で悲しみを空に發散した。 その單純な悲しみは美くしく痛切で偉大な感じがした。 その滑かな純白の胸のふくらみのゆれ動くのは實に立派であつた。 まことにあんな美くしいものを見た事はない氣がした。 威嚴のある感じがした。 金網の周圍には多くの女や吾れ/\が立つて見てゐた。 自分達は均しく感動した。 自分はその悲しみを見るのが白鳥にすまない氣がした。 吾々の誤つてゐる事を卑しめられた 白鳥に知らしてやれないのを悲しく思つた。 自分はその悲しみを早く忘れてくれるやうに願つた。

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