五月の歌(『晶子詩篇全集』収録・同題第2篇)
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ああ五月、我等の世界は
太陽と、花と、麦の穂と、
瑠璃の空とをもて飾られ、
空気は酒室の呼吸の如く甘く、
光は孔雀の羽の如く緑金なり。
ああ五月、万物は一新す、
竹の子も地を破り、
どくだみの花も蝶を呼び、
蜂も卵を産む。
かかる時に、母の胎を出でて
清く勇ましき初声を揚ぐる児、
抱寝して、其児に
初めて人間のマナを飲まする母、
はげしき※愛の中に手を執る
婚莚の夜の若き二人、
若葉に露の置く如く額に汗して、
桑を摘み、麻を織る里人、
共に何たる景福の人人ぞ。
たとひ此日、欧洲の戦場に立ちて、
鉄と火の前に、
大悪非道の犠牲とならん勇士も、
また無料宿泊所の壁に凭りて
明日の朝飯の代を持たぬ無職者も、
ああ五月、此月に遇へることは
如何に力満ちたる実感の生ならまし。
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