虫干の日に
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虫干の日に現れたる
女の帽のかずかず、
欧羅巴の旅にて
わが被たりしもの。
おお、一千九百十二年の
巴里の流行。
リボンと、花と、
羽飾りとは褪せたれど、
思出は古酒の如く甘し。
埃と黴を透して
是等の帽の上に
セエヌの水の匂ひ、
サン・クルウの森の雫、
ハイド・パアクの霧、
ミユンヘンの霜、維納の雨、
アムステルダムの入日の色、
さては、また、
バガテルの薔薇の香、
仏蘭西座の人いきれ、
猶残れるや、残らぬや、
思出は古酒の如く甘し。
アウギユスト・ロダンは
この帽の下にて
我手に口づけ、
ラパン・アジルに集る
新しき詩人と画家の群は
この帽を被たる我を
中央に据ゑて歌ひき。
別れの握手の後、
猶一たびこの帽を擡げて、
優雅なる詩人レニエの姿を
我こそ振返りしか。
ああ、すべて十とせの前、
思出は古酒の如く甘し。
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