空罎

北原白秋

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葡萄酒罎の上包、霊なるころも、 何の魔か、飽くなき慾の痙攣もて かく引き裂り、むざむざと歩み棄てけむ。―― 火の片ぞ素足にわれと泣かしむる。 いづくに行かば得らるべき命の糧ぞ。 踏むはただ鉛の路の火の飛沫、 死の色つづく高壁のつらねのそこを 蟻のごと匍ひもとほらむ末のすゑ。―― たちまち薫る酒の歌、蒸すかと見れば 赭ら頬の想の族らとりどりに、 はや、酔ひしれて狂れきぬ、あな、わが血にぞ。 かくて、見よ、わが幻に転ぶもの 吸い尽くされし空の罎、――空なる命、 最終の辻の恐怖に、ふと青む。

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